だって人が何かをどうしても欲しいって気持ちさえなくなれば、戦争も暴力も不安も、何かへの恐れそのものさえも・・・、世の中に存在するマイナ卓悅スな、ほとんどすべてのものがなくなるって・・・、それ、知ってました?」
ええ?
ま、まあ確かに、そ、それもわかる気はするけどさあ」
ひとつだけ・・・、そのたったひとつの考えだけを人類が捨てることが出来れば、この地球上における、そのほとんどすべての問題は解決するんですよ。
それって凄くないですか?」
いやあ・・・、まあ、それは確かに、それはそれで凄いとは思うけどさあ?
って、それでまあ、ヒカルさんとしては『ホンジョウさんへの執着』?なんてものも捨てられたと?
そうおっしゃりたいわけかな?」

ええ?


ま、マキさんたら。

ま・・・、マキさんは意地悪なんだから。
すぐそっちの話題に持って行こうとして」
え~。

だってもう、ヒカルさんだって、全然そのことについて話してくれないしさあ。
ちょっと水臭くない?」

卓悅れからヒカルさんは、もう寝てしまったの?と思わせるぐらいに、しばらくの間一切物音も立てずに沈黙し・・・、そして再び突然思い出したかのようにこう語り始めた。
ホンジョウさんに関して、実はわたしにはよくわからないんだけど・・・、彼が少し前に1度カウンセリングに来た時に、彼をひとり、ちょっとばかりリビンングに待たせてしまったことがあって。
それでその時に、これもまあ本当にたまたまだったんだけど・・・、彼があるフォトフレームの写真を偶然見てしまったようで・・・、ってああ、そのフォトフレームに映ってたのは、わたしがまだ生まれて間もない頃にわたしによくしてくれたあるオンナの人の写真だったんだけど・・・、とにかく、その写真を彼が偶然見てしまって以来・・・、っておそらくその時以来だと思うんだけど、彼の態度が変わってしまったっていうか。

多分その人、彼の知り合いだったんじゃないかな?」
えっ?
何?

何?その写真って?」
卓悅 ええ。

その写真は、わたしのリビングにある冷蔵庫の上にあったフォトフレームに入った写真のことなんだけどね。
わたしとしては・・・、その写真が、まあ、なんて言うか、自分の母親って誤解されるのが面倒だな、なんて思って・・・、ああ、その彼女が赤ん坊のわたしを抱いて写ってる写真だったもんでね。
それでつまり、彼がカウンセリングに来てた時に、なんとなくそう思ってわたし、伏せておいたのよ、そのフレーム。
でも、それからホンジョウさん・・・、多分それを見たんじゃないかな?」
えっ?